読者の皆さん、こんにちは。
株式会社ユナイテッドの藤田です。
こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。
シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。
シリーズその②では、「人材開発」を取り上げ、カウンセリングについてご紹介しました。
シリーズその③では、「公」と「私」について私の考えをご紹介しました。
そしてシリーズその④では、「PMI体験記」をお送りしたいと思います。
本日は第10話ですが、ポストPMIの第1弾として、「スキルマップ改訂 その①」について解説します。
ポストPMIに至る論点整理
まずは、S社のポストPMIをどのように進めたのかについて、もう一度整理してみたいと思います。
①S社は、30人程度のモーター修理業です。産業用モーターの種類は千差万別ですので、S社ですべてのモーターが修理できる訳ではありませんが、得意としているサイズは小型から中型で、かなりのボリュームゾーンです。また、修理対応の幅は広く、他社ではなかなかできないコイルの巻替え、溶射加工、バランス調整なども手がけることができましたので、注文は安定的に入っていました。さらに付け加えると、売上を増やそうと思えば増やせるだけの潜在ニーズもありました。
②修理代を見積もる場合の根拠は、大雑把に言うとサイズと作業内容に応じた標準単価が決まっており、1つ1つの作業内容ごとに積算していました。例えば〇kwの交流モーターの分解洗浄はいくら、ベアリング交換はいくら、コイル巻き替えはいくら、などのように、サイズ(kw数)と作業内容によって単価表があったのです。これは過去に行った修理実績と経験則から算出された単価ですが、感覚的に採算がとれていることは分かるものの、どの作業項目がどれだけ儲かっているかという詳細な検証はできませんでした。
③顧客が修理業者を決める時の判断ですが、価格で決まることはあまりなく、納期対応力や品質などそれまでの作業実績が重視されていました。なので、相見積りなどはむしろ珍しく、見積依頼が来ればほぼ受注(予算の関係で先送りになることはありましたが)に至ることが多かったです。また、いわゆる枯れた業界でしたので、新規参入者もなく、むしろ高齢化により同業他社は徐々に減少していました。
④現場社員のスキルは総じて高かったですが、社員によって対応可能な作業内容はバラバラで、ある程度専門分野が分かれていました。例えば分解洗浄のように一般的な作業は誰でもできますが、溶射加工ができたのは2名だけでした。またその専門分野の中でも、個人個人の技量差(言い換えれば作業時間の差)はかなりありました。時間で言えば、2年目ぐらいの若手が3時間かけてやる作業を、ベテランなら1時間でやってしまうぐらいの差です。また品質面でも、ベテランはモーターのコンディションに応じた対応策が分かっていましたので、性能も仕上がり(見た目)も明らかに高かったように思います。
⑤修理工場は住宅地の中の小さな工業団地で、土地も工場建屋もさほど広くはありませんでした。モーターの修理業は分解してバラバラになった部品を分別管理する必要がありますので、ある程度のスペースが必要になります。一時期に多数のモーターを受け入れてしまうと、スペースを確保するために他のモーターを移動させるなどの無駄な作業が発生して、生産性が下がります。緊急の大型案件が入った場合は、社員が休日出勤や深夜残業などで対応してくれていました。
⑥積極的な営業活動は行っておらず、既存顧客からの注文対応や同業他社からの紹介である程度の売上は確保していましたが、採算の低い案件を引き受けたり、工場の閑散期を埋める案件が見つからなかったり、効率性が悪いこともありました。
上記のような環境で、S社が順調に業績を伸ばして、その社員が幸せになるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?
まず売上を伸ばすための潜在顧客がいて(①)、競争も激しくなかった(③)ことから、新規顧客開拓の余地は十分にありました。また、顧客が重視するのは価格よりも納期対応力や品質であり(③)、言い値が通りやすい環境でもありました。ただし、工場のサイズに限界があり、やみくもに案件を増やしただけではかえって非効率になる(⑤)という制約がありました。
ここから導き出される改善点は、下記の4点です。
・新規案件を積極的に開拓し、高採算な案件や閑散期を埋める案件を取ることで、工場の稼働率を上げることができる(⑥の改善)
・モーター種類別、作業区分別に採算性が明らかになれば、工場の生産能力を最大限に生かす採算の良い案件に注力することができる(②の改善)
・社員の修理スキルを向上させ、修理対応の幅を広げ、作業の技量を高めることで、工場の稼働率を上げることができる(④の改善)
・社員の修理スキルと貢献度を定量化し、頑張った成果を給与や賞与に反映させることで、社員の時間外労働に対する意欲を引き出すことができる(⑤の改善)
PMIにより経営統合と業務統合を果たし(先送りも多かったですが)、意識統合にも成功した(ここに注力しました)ことで、上記の改善点を見出すことができました。PMIといえば、形式的なルール統一のようなイメージを持つ方も多いと思いますが、本当に大切なのはその後の業務改善であるということが、お分かりいただけたと思います。
上記4点のうち、⑥の改善については、「マーケティング導入」の稿でまとめて解説したいと思います。また、②の改善については、「DX導入準備」の稿でまとめて解説したいと思います。「スキルマップ改訂」では、④の改善と⑤の改善についてご説明しますが、本日は紙数が尽きましたので次稿に譲りたいと思います。
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